麺の概念が変わる!?手延べ麺の真髄
食欲が減退する暑い夏でも、するんとお腹に収まる定番食といえば「そうめん」。今、あなたが頭に思い描いたそうめんは“手延べ”でしたか?「え、何が違うの?」お答えしましょう。つるつるを超える、ちゅるちゅる&もっちり体験の世界へようこそ。
今回お邪魔したのは、甲佐町そう川で手延べ麺を製造・販売する「肥後そう川」。麺を途中で切らず、1本を「重ねて寝かせて延ばす」を繰り返す“手延べ”は、何よりも手間暇と経験が物を言います。
原料は「小麦粉・食塩・水」といたってシンプル。そうめん以外に、そば、パスタ、ラーメンなども製造するこちらでは、県産小麦を中心に20種の小麦粉を使い分けています。製法は変えず、麺を延ばすタイミングや長さ、重ねの数を変えているのです。
取締役専務兼工場長の阪本憲作さんは、企画運営や商品開発、デザインまでこなす県内随一の麺通です。「うちの“潤生(じゅんなま)長そうめん”は、ちょっとだけ長めに柔らかく茹で、冷水でキュッと締めてすぐに食べるのが一番美味しい」と、こっそり裏技を教えて頂きました。ふっくらしたところを冷水で冷やすことで、柔らかいのにコシがあるもっちり麺になるそうです。
製造風景を覗かせてもらいました
工場の朝は早く、なんと朝の3時45分からスタート。まずは、小麦粉を帯状にした麺帯(めんたい)を何度も重ねて圧をかけて均一に延ばしていきます。そうめんの場合、直径6㎜まで細くなったら2本の棒に編み込み、熟成させては引っ張って延ばすを繰り返し、最終的に2mぐらいまで延ばしていきます。
延ばした後に熟成させるのは、旨みや食感を左右するグルテンを引き出すため。また、麺もしっかり伸びます。その日の気温、湿度、小麦の種類でその時間は異なるようで、細くてもコシのある麺にするには、やはり経験が必要です。
ちょっとした実験を見せてもらいました。生地を重ねることで繊維が縦に揃った麺は、縦に引っ張ると延びますが、横に引っ張るとまるで割けるチーズのように綺麗に割けます。これも、32本もの麺帯を重ねているからこそ!
昔はすべて手作業で行っていましたが、作業効率と衛生面を考えて、簡単に延ばせる麺は機械を使っています。これにより、時間がかかり過ぎると麺が良い状態の時に延ばせないという問題も解消できます。同じ時間、手作業でする量との差は約50倍だそうです。しかし、副原料を練り込んだ麺は、延び方がそれぞれ違う場合も多く、手作業で延ばすことも少なくなりません。手作業の良さは、対応力のあるところです。
「潤生(じゅんなま)」は、熟成を超える「超熟成」
別の部屋では、天井で除湿器が回っています。「表面が乾いたら一晩中乾燥させ、朝からもう1回乾燥させて美味しい乾麺を作っています」と阪本さん。気の遠くなるような手間暇がかかっています。
さらに奥の部屋に進むと、天井のパイプから蒸気が出る部屋に着きました。「乾麺のままでも十分美味しいのですが、蒸気とミストを使って乾燥させた麺にもう一度水分を与え直し、再熟成を促した麺はもっと美味しいですよ」と驚きの発言。せっかく乾かしたのに!と戸惑いを隠せませんが、これにより誕生した「潤生(じゅんなま)」は、九州新幹線開業の際に行われたグルメコンテストで見事、優勝を果たしています。
こちらでは、県内外の様々な特産品を麺に練り込み、商品化しています。この日は美里産のゆず麺をパッケージ中でした。爽やかな香りがほのかに立ち込めています。この道20年のベテランさんたちが、手際よく麺を計量し、袋に詰めています。
流れるような動きで木箱やフードパックに麺が詰められていきます。梱包材からラベルのデザイン・印刷まで請け負うため、材料さえ持ち込めば、比較的安価に、すぐにでも販売が可能となります。工場内の床に散らばった麺は、集めて鳥や牛たちのエサに。細かいところまで無駄にしない精神は「できることは自分たちでやる」という企業スタイルの表れです。
甲佐町から拡散中!ご当地麺の数々
工場のすぐ近くには直営の食事処があり、そうめんを中心に様々な手延べ麺を使ったメニューが楽しめます。甲佐町以外にも、御船町にある「そう川 本店」と、熊本市東区にある「県庁通り店」でも味わうことができます。
まずはコレを食べなきゃ始まらない!潤生そうめん(冷)500円。「つるっ」より「ちゅるん」という表現がぴったりです。小麦の風味ともちもち食感を楽しんだ後に、瑞々しさが喉を駆け抜けていきます。
喉ごしの良いざるそば(550円)は、そうめんと並ぶ夏の風物詩。そばに合わせて作られたつゆは、そうめんとは別仕立てで甘めの味付けです。
人気のゴボウ茶の粉末を練り込んだ「ごぼーめん(温)」は650円(冬季のみ)。茹で上げせずに煮込むことで麺からゴボウの出汁が出て、自社開発の減塩無添加つゆを足すだけで風味豊かな絶品スープになります。食物繊維がたっぷり摂れて言うことなし!
併設する直売店には、県産野菜を練り込んだそうめんやパスタ、甲佐町の特産品であるニラを使ったラーメンなど、バラエティー豊富な商品が並びます。
グルメコンテスト優勝賞品は、鯛のエキスが染み込んだ縁起麺。1本の麺が紅白になっているうどんです。
あちこちの企業や団体から商品化の相談がある阪本さんは、連日大忙しのご様子。頭の中は、まだまだ手延べ麺のアイデアが詰まっていそうです。次はどんな驚き麺が登場するのか、引き続き見守っていきます。