ボシドラって何か知ってます?
皆さんは、「田舎暮らし」にどんなイメージを思い浮かべますか?国道443号線から県道220号線を緑川上流に向けて走ること約7分。水と緑豊かな宮内地区でディープな田舎暮らしを実践する佐藤直樹さんにお話をうかがいました!
佐藤直樹さんは、農産物の生産や森林資源の加工・販売を行う「ボシドラ農園」の代表。最初に気になるのはまるで外国語のような「ボシドラ」という言葉。まずはその意味について聞いてみました。
「“ボシドラ”はこの地域の郷土芸能の名前で、踊りの名前です。雨乞い踊りとも言われていて、甲佐小学校の子どもたちが受け継いでるんです。踊りを伝統としてこれからも残していくのは大変ですけど、その名を別のコンテンツにも使っちゃえば、その名はずっと存在するじゃないですか。ボシドラ農園の記事を見た人が、甲佐町に興味を持つきっかけになればいいと思い、地域の方々の了承を得てこの名前にしました」。
佐藤さんの肩書きは、「百姓・猟師」。以前は都市計画のコンサルタントを営んでいたそうです。甲佐町を訪れた際、宮内地区の現状についてうかがい、自分で地域を見て歩いてみたところ、とても惹き付けられたのだとか。「空家が多い」「誰も手を付けなくなった田畑も多い」と聞き、「じゃあ自分が借りて使おう」と思ったことが移住のきっかけに。
ボシドラ農園の事務所となっている旧宮内小学校。校庭はイベント会場としても利用されています。
佐藤さんが実践されているのは、農薬や肥料に頼らない「自然栽培」。「自分が食べたいと思ったものものを作っています。夏は生い茂る草を取ったりして多少は手を入れますけど、基本は自然に任せています」。
お米や野菜だけでなく、果樹栽培にも精を出す佐藤さん。移住して何年か経ったとき、「おいミカンいるか?」と聞かれたことがあったそうです。手渡しでいくつかもらえるのかと思っていたら、なんとミカン山ごと託されたこともあったとか!
椎茸の菌をつける原木の切り出し。宮内地区は昔から林業が盛んで、ボシドラ農園の事務所となっている小学校も木材の売却利益で建てたそうです。今でも集落の人たちと協力して木材を切り出し、薪や薪に加工して販売もされています。
四季折々の自然の恵みを収穫できるのが一番の楽しみと語る佐藤さん。春の野山を巡れば、たらの芽などの山菜もたくさん手に入る。
夏は川でとれる天然の鰻を自家製の炭で蒲焼きに。鰻の獲り方も炭の焼き方も、集落のお年寄りから学んだ生活の知恵。自分で何もかもまかなうからこそ、味は格別だそうです。
猟師でもある佐藤さんは、罠を使ってイノシシや鹿を狩る。罠での捕獲は肉に損傷を与えないため、良質な肉が手に入る。「最近は山から降りてきたイノシシや鹿による食害が増えてますからね。定期的に狩猟を行わないと減らないんです。甲佐町自体もそうですけど、どの地域も猟師さんが高齢化していて大変なので。狩猟免許はこっちに来て取りました。皮はなめしてレザークラフトに使えますし、骨もキーホルダーにしたり、鹿の角などはオブジェとして使えます」。利用できるところは徹底的に利用することも狩猟者としての挟持です。
移住してわかった「何もない」の意味
都市部での生活にくらべ、お店や娯楽施設が少ない田舎暮らしは不便ではないかと考える人は多いはず。しかし佐藤さんはこう語ります。「全国の田舎を飛び回ってよく耳にしていたのが、「うちには何もない」って言葉です。たしかに宮内地区には信号もないし、コンビニも病院もない。でもここに6、7年住んでみてようやく理解できたのは、「なくても困らないもの」がないってことなんです。生きるための食料や水は豊富にある。それどころか、山に入れば、四季折々のいろいろな楽しみがあるんです」。
熊本地震から約2ヵ月後の6月20日~21日にかけて熊本県内は豪雨に見舞われ、甲佐町では国内史上4番目となる1時間あたり150㎜の雨量を観測しました。その際大雨によって崖崩れが起こり、陸の孤島となった宮内地区。しかし農園の作物や狩猟した猪肉のおかげで食にはまったく困ることはなかったそうです。
東京から3時間の田舎暮らしを体験!
甲佐に移住した一番の魅力は、アクセスの利便性だとも語る佐藤さん。「見ての通り甲佐町は田舎なんだけど、熊本市には意外と近いでしょう。実は熊本市だけではなく、羽田からも3時間なんですよ。今は災害復興のために中断してますけど、以前農業体験をしていたときには東京や大阪から多くの人が訪れてくれるんです。田舎のよさを気軽に体験できるのは甲佐町や宮内地区のポイントです」。
お年寄りの知識や技術を発信する意義
佐藤さんはWEBを利用した情報発信も巧みです。写真は、斧の刃にかぶせて怪我を防ぐ「刃沓(はぐつ)」の作り方を紹介するために佐藤さんが撮影された画像。
「お年寄りは長年の経験や知識、技術をたくさん持っておられます。木を1本倒すにしても、鮎釣りにしても、僕よりすごく上手なんですよ。それらのノウハウを外に向けて発信することも、僕の役割かなと思っています。お年寄りが先祖代々受け継いできた暮らしの知恵や技術をWEB上に残すこと。刃沓にしても、素晴らしい技術を持っていてもそれを発信する術がない。そうした自分がお年寄りから学んだ知恵や知識を残すことで、いつか誰かの役に立つかもしれない」と佐藤さんは熱く語ります。
最後にボシドラ農園を通じて今後やってみたいことをうかがいました。
「日帰りで来ることのできる田舎も魅力ですが、今後、甲佐町に宿泊できる場所が増えれば、僕らの普段の暮らしにもっと近いディープな田舎暮らし体験を楽しんでもらえるかもしれませんね。日帰りでは味わえない、甲佐の魅力を楽しんでもらえうことで、甲佐に住んでみたいという人も増えるかもしれない。僕自身としては、このまま忘れ去られるには惜しい知識を教えてもらい、暮らしに役立つ知識をいっぱい持った年寄りになることが夢ですね(笑)」。
最近は編み物にハマっているという佐藤さん。ありのままの田舎暮らしを体験してみたい人は、ぜひボシドラ農園に遊びに行ってみてください。