甲佐町に縁を感じて
甲佐町初の古民家ホテルの支配人を任されている柴尾さん。
彼は少し変わった経歴の持ち主です。変わったと言っても「変」な要素は微塵もなく、話していると、丁寧で誠実で、彼の人間味の良さが伝わってきます。
「実は僕、小学校の1、2年生の時に甲佐町の乙女小学校に通っていたんですよ。自然いっぱいの環境で山村留学をしてました。朝はニワトリの卵を採って学校に通う…みたいな生活をしてました。笑」
山村留学、どこかで聞いたことのある単語ですが中身を知らなかったので調べてみると、「自然豊かな農山漁村に小中学生が一年間単位で移り住み、地元の学校に通いながらさまざまな体験を積む活動」とあります。
柴尾さんは、当時の乙女小学校で行われていた山村留学の取り組みに参加されていたという事でした。幼少期に数年間も親と離れて過ごすことは、きっと親にしても子にしても勇気のいる事だと思います。
ご出身は熊本県玉名市だそうで、小学校の二年間を甲佐町で過ごした後は玉名市へ戻り、中学校は西原村、高校は熊本市、熊本の大学で針灸師とスポーツトレーナーの資格を取ったのちに鹿児島県は頴娃(えい)町と、指宿近くのまちにある整骨院へと就職をされます。
体の健康だけでなく、本当の健康を願う気持ち
「仕事をしているうちに、本当の健康って何だろうと考えるようになりました。体が健康であっても、その方を取り巻く環境が豊かでないと本当の健康ってことにならないんじゃないかと。」
どうして整骨院での仕事を辞めて、古民家ホテルの支配人になったのかと尋ねると、ポツリポツリとお話してくださいました。
「鹿児島で働いている時に、東京オリンピックの開催が決まり、そこに自分のやりたい仕事があると思って、東京に行こうと思っていました。」
しかし、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により東京オリンピックは中止に。
「もともと東京には長く居ようとは考えてなくて、熊本に帰りたいなとも思っていました。どうしようかなぁ、とぼんやり考えていた時にFacebookの広告で「まちおこし、じゃない食と泊と暮らしでこの町をもっと面白く」という一般社団法人パレットの求人広告を見つけたんです。しかも小さい頃二年間暮らした「甲佐町」だったこともあって、興味本位で、将来の選択肢の一つとしてまずは下見しにこっそり来てみました。」
むかしの思い出を頼りに、当時暮らしていた場所や小学校、新しくできた町のお店などを巡り、「面白い事している町だな。」と。甲佐町で働く、暮らす。ということが現実味を帯びてきたそうです。
「体だけ健康になっても意味がない。地域や周りとのコミュニケーションがあってこそ本当の意味で健康になれる。という自分の想いとパレットの活動内容がマッチして、それからとんとん拍子に事が進み、今に至ります。」
柴尾さんは現在、古民家ホテルの支配人の傍ら、針灸師として施術もされています。
「広く浅くお客様を診る事はしたくなくて、ひとりのお客様とじっくり向き合いたいと思っています。」という柴尾さん。
彼の施術を受けた後は皆さん、「丁寧にやってくれて気持ちよかった。」と心までほぐされたように、ほっこりされているようです。鍼灸師とホテル支配人、一見両極端な職業に思えますが、ホスピタリティの心を持って人と向き合うことは似ている部分があるのかもしれませんね。
甲佐で暮らすということ
甲佐町に移住したその日に婚姻届を提出したという柴尾さん。これには周りにいる皆もびっくりしていましたが、率直に甲佐町の住み心地はどうですか?と聞いてみました。
「本当にいろんな方が気にかけてくださり、人との繋がりが濃い町だなという印象です。」
良くも悪くも人との距離が近いところが田舎の良さでもありますね。柴尾さんは誰に対しても丁寧に、気さくにお付き合いが出来る方だとお見受けするところから、きっと町内の人からも可愛がられていらっしゃることでしょう。
ホテルのカウンターにある地域の方がご好意で描いてくださったという絵葉書。
地域の方とのコミュニケーションもホテル支配人の大切な仕事のひとつです。
「実は僕、同じ場所に四年間、留まったことがないんです。笑」
突然びっくり発言が飛び出しました。笑
今までは自分軸で動くことの決断をしてきたそうですが、結婚して奥様という存在ができ、出産、子育てとなると都会と比べ、田舎での暮らしはまだまだ不便な部分がたくさんあるのは事実です。
「甲佐町で暮らすようになった事で、田舎暮らしを考えてる方に良いところや、困ったときの解決法など、体験した事を伝えていく。という事もしていきたいなと考えています。」
移住の先輩としてのご意見、頼りになりますね。
特に最近はコロナウィルスの影響もあって、環境の変化がとても目まぐるしく、時の流れがとても速く感じられます。この時代の中で2020年11月にオープンした古民家ホテルの支配人、これからもやっていきたい鍼灸師、この二つを両立させる事は容易くないと思います。
しかし、縁あって戻って来られた甲佐町。柴尾さんの柔らかくとも力強いエネルギーで、この時代を乗り越えていかれる事だろうと思います。
最後にホテルの支配人として町にやってきた当初、ホテルの改修工事を自ら手伝われていた頃の写真を載せておきます。
甲佐町に来られた際は、ぜひNIPPONIA甲佐へお立ち寄りください。