代々伝わる剣術
甲佐町の田口という緑川沿いの田園が広がる風景の中ひっそりと、しかし道から見える建物にはどことなく威厳が感じられるような、そんな雰囲気の道場。今回、思い切って訪ねてみることに。
取材に伺ったこの日、「游神館」の師範である館長の田中さんと、副館長である和田さんにお話を伺うことができました。
実は、事前に剣術を披露されている動画を何度か拝見させて頂いていて、真剣を使って斬られている姿が勇ましく、強面な感じに見えて、ドキドキしながら伺ったのですが
当日、初めてご挨拶させていただくと快く取材を引き受けてくださり、館長自ら「冷えるでしょう」と、ストーブなどもたくさん用意して頂いて、内心すごく(良い意味で!)拍子抜けでした。
そもそも、居合斬りとはどういう事を指すのでしょう。
「居合」とは抜き打ちの事で、瞬時に敵の結界内に踏み込みつつ、素早く鞘から刀を抜いて一閃で斬る技の事を言うそうです。
居合の起こりは1561年(永禄4年頃から始まったと伝えられています)。沢山ある流派の中でも游神館では「伯耆(ほうき)流」という流派を伝承されているそうで、熊本には250年前に星野角右衛門が伝えたとされています。
一般的に居合道と呼ばれるものは、斬ることをせずに「型」だけを行うものだそうですが、游神館では、居合の型ばかりでなく本当の刀を使って「斬る」居合斬りの鍛錬が行われています。本物の剣術を学べる、全国でも数少ない道場の一つです。
この居合斬りの剣術は、その昔から館長の家に代々受け継がれてきた術だそうですが、
館長がまだ若かりし頃は口外禁止の、家内だけの秘事だったそうです。
それが昭和の世になり、VHS(ビデオデープ)やインターネットの普及などによって、たくさんの情報が公開されていくなかで、館長になる田中さんは「この伝統ある剣術を絶やすことなく世の中に広めていきたい」と、刀を用いて修練する「居合斬り・抜刀術」の道場を立ち上げられました。
この甲佐町の田口に道場「游神館」が出来たのは平成27年、今年で丸6年経つとのこと。
それまで他の道場で師範代を長年されていましたが、その道場が閉館となりご自身で道場を建てられることに。
中学生の頃から体を鍛え始め、高校生の頃には米俵をかつげる程の力持ちだったそうです。
稽古後は毎回ビデオ撮影した練習過程を大きなテレビモニターで見て、反省点を見つけ次回への課題に繋げるのだそうです。ゆっくりお茶を飲みながらワイワイと過ごす観賞会も楽しそうですね。
一通りインタビューを終えると、実際に巻藁を斬っているところを見せていただきました。
今回初めて居合斬りを見せていただきましたが、剣を持たれて斬る動作には狂いがなく、ヒュッと刀の音が鳴るたびに、身が引き締まるようです。
館長や副館長の手によってスパッ、スパッと見事に斬れていく巻藁。巻いたゴザの中に竹が1本入っておりますが、これは古来から剣術鍛錬に使われているものだそうですが、他の道場では竹が入っていない巻き藁を使っているそうです。
いくつも抜き打ちの技を見せてくださったあと、あなたもやってみますか?と誘ってくださり、私も少し体験させてもらえることに。
まずは模擬刀で素振りの練習をします。ここで力の入れ具合や刀の振り方を何度か先生方に見ていただき、なんと10分かそこらでいざ本番に。(本来であればもっと時間をかけてじっくり教えて戴けるそうです。)
これまで武術の経験も無いうえ、刀を持ったのなんて初めての私です。
斬れずに失敗しては、「もうちょっと深く振りかぶって」、「力を抜いて刀の振り先をここに」などと細かく微調整をしてくださり、何度かやっているうちに力まずスパッと斬ることができました!
…これは、病みつきになる感覚かもしれません。
游神館では、今回のように「斬る」体験ができる侍(サムライ)体験斬りも行われています。
15歳以上から本当の刀を使って練習ができるとのこと(未成年者は保護者の同意が必要)、毎週の稽古日である、日・火・木曜に受付けているとのこと。
もちろん、侍への道を志す門下生も随時募集されています。
現在入門されている館員さんは数十名、県内外の各地からお越しになられているそうです。
今回お話を伺った副館長の和田さんは、散歩途中にこの道場が気になり思い切って門を叩いてみたそうで、それ以来「居合斬り」の身も心もスッキリする感覚の虜になり、今では県内でも珍しい女性剣士としてここでお稽古に励まれています。
熊本地震以来、毎年春と秋に行われる熊本城のお城まつりでは、多くの観客の前で技を披露されて復興の力にひと役買われていらっしゃいます。インスタグラムでも精力的に、伝統ある剣術を幅広い世代に伝えられていて、SNSの動画は海外のファンも多く、実際に海外から体験に来られる方もいらっしゃるのだそうです。
「居合斬り・抜き打ち」の技を絶やさず伝えていく游神館は、日本の伝統を繋ぐ大切で重要な役割も持っている場所だと思います。
今回取材させて頂いた、一見近寄りがたい「居合斬り」の世界。
ここ「游神館」は、館長と副館長の温かく、気さくなお人柄のおかげで随分と身近な世界に感じられるようでした。
また、気分をスカッとさせたい時に行ってみたいと思います!
皆様もお気軽にぜひ、門を叩いてみてください。