まるで相撲部屋!本物の土俵を囲んでちゃんこを戴く
甲佐町から熊本市城南方面に渡る橋、田口橋(たぐちばし)のふもとに一軒のちゃんこ鍋屋さんがあります。「建物の中に土俵がある」という噂を聞いて、どんな所なのだろうかと胸をワクワクさせながら道場(お店)の門を叩きました。
お店に入るとまず目に飛び込んでくるのが立派な土俵!柱も立派なものです。
玄関にもあった大きな欅の柱も本当に立派。ちょっと張り手風に叩いてみたけどピクリとも動きませんでした。自分の手が痛いだけですのでみなさんは真似しないでくださいね。
ここは甲佐町出身の元力士「肥後椿」さん(本名は前田さんと言います)が営まれているちゃんこ鍋屋さんです。元力士と聞いて、いったいどんな方が出て来られるのかと思ったら、柔らかい笑顔が印象的で気さくな前田さんが出てこられて安心しました。笑
15歳から親元を離れ歩んだ相撲の道
甲佐町で柔道や相撲を学んでいた前田さんが、恩師の誘いを受けて入門したのは、東京にある押尾川部屋でした。なんと取材に伺ったこの日は2月17日で、中学卒業前の15歳だった前田さんが押尾川部屋に入門したという、まさにその日でした。なんという偶然!!
力士時代には「肥後椿」として活躍していらっしゃった前田さん。
「部屋にいた7年の間、年に6場所、半分は地方場所で大阪、名古屋、九州に遠征していました。」
入門当時から先輩の兄弟子たちに教わりながら、掃除や食事の当番を任され、30人程いた部屋で過ごされていたそうです。
お相撲さんのお話が聞けるチャンスなんて滅多にないので、ちゃんこ鍋とは少し話が遠くなりますが、お話を伺いました。
「初土俵は昭和52年の3月場所でした。」
「前相撲」という、まだ番付表に載ってない入門したての力士が3日間戦うデビュー戦では三戦三勝という白星。一番最初に名前が載ったのは「東序の口七枚」だったそうです。
幕下力士が上に上がって行くには毎場所で相撲がとれる七日間のうち4勝すれば勝ち越し、逆に四敗すれば負け越しで順位が下に下がってしまうという、スポーツ界では当然ですが、自分の身体能力や精神力が全てのシビアな世界です。
そこで戦ってきた前田さんは、22歳頃までの7年間の相撲人生から一転、東京で料理の勉強やサラリーマンを経験した後に甲佐町に帰ってこられました。
兄弟子から受け継いだ部屋の味「ちゃんこ鍋」
「元々両親がやってた飲食店にちゃんこ鍋を取り入れたのが始まりでした。」
現在とは違う場所で営業されていたご両親のお店、本格的に「ちゃんこ前田屋」として現在の場所に移されたのが平成2年、今年で30年目になるそうです。
「ちゃんこにもいろんな味があるけど、うちはスタンダードな「つみれちゃんこ」のみ。つみれも一つ一つ手作りです。」
ぐつぐつと鍋が煮えてきたので、さっそく「つみれちゃんこ鍋」を頂きたいと思います。
甲佐産のニラをはじめ、白菜やしいたけなどたっぷりの野菜が入ったお鍋は、和風だしベースの塩ちゃんこ味で、しっかりとお出汁が効いています。存在感たっぷりに入っているつみれは、鶏肉、ねぎ、キクラゲ、七味唐辛子がピリッとくる食べ応え十分の大きさです。
「これで2人前くらいよ。」と・・・。
さすがの私でも一人で頂くのは大変でしたので、どうしようかと思っていたら
「お持ち帰りもできるけん。」
なんというサービス!鍋のお持ち帰りとかあまり聞きませんが、ここ「ちゃんこ前田屋」ではスープとつみれはお持ち帰りでの提供もされているそうです。この日もお持ち帰りで注文されていたお客様が受け取りに来られていました。遠くは南阿蘇からも注文が入ることもあるそうです。
お持ち帰りは1人前からOKです。(1人前700円+税)
この「つみれちゃんこ」は毎年、甲佐町の産業文化祭や10マイルロードレースで「1000人鍋」としても振舞われています。
「あの1000人鍋用につみれを丸めるのは2日も3日もかかるんですよ。笑」
と笑う前田さん。確かに、あの大鍋分を用意するのは一苦労ですね!
鍋の大きさに対してどれだけの量のスープとつみれを用意したら良いか分からず、試行錯誤だったとか。そんなこともつゆ知らず、これまで美味しく頂くのみですみませんでした。笑
メニューは、ちゃんこ鍋が一人前1,000円(2人前からの注文)、その他にもお刺身、ポテトフライや唐揚げなどの揚げ物、ホルモン煮込みや冷奴などの一品料理も揃います。取材時のこの日はメニュー表を作り変えている途中とのことでした。
夏場には敷地内の一角がビアガーデンとなります。取材の日が冬でしたのであいにく写真はありませんが、夏場は心地よい夜風に吹かれながらビールとお鍋を楽しめて最高です。お鍋だけではなく、居酒屋メニューもあり、ホルモン煮込みなどお酒に合う料理がたくさんあります。
店内にある土俵は実際の3分の2程度の大きさですが、駐車場脇にある道場には本物の土俵があるそうで、
「現在幕内力士で頑張ってる正代関も小学校から高校までの間は練習しに来てたよ。」
「最近では人がなかなか集まらないからね〜。」
とのことでしたが、今でも練習したいという子供がいれば道場での練習も対応して下さるそうです。元力士から指導を受けれるなんて、そうそうないチャンスですよね。現在は「相撲」という競技自体の参加人数が少なくなっているとの事ですが、日本の国技を伝える場として、未来へ繋がっていったら良いなと思います。
甲佐町にこられた際は、美味しいお鍋と迫力ある土俵が楽しめる「ちゃんこ前田屋」にぜひお立ち寄りください!