緑川水系の地下水で育った上質な鰻
※写真提供元「鰻屋源八郎(げんぱちろう)」
実は、甲佐町に鰻の養殖場があるということをご存知でしたか?今回は、深緑に包まれた水の郷、白旗山(しらはたやま)の麗で、鰻本来の生態を大切にした完全屋内型の自社養殖場を営む「山本建設(株)甲佐養殖事業部」にお邪魔しました。
こちらで行われているのは、全国でも数えるほどしかない循環式の水質浄化システムを採用したタンク養殖です。天候に左右されることなく水質を維持・調整することができるため、生産効率も上がるとか。年間50~100トン超(1トン約5000匹)の鰻を育てています。
養殖の要はろ過槽。井戸水を組み上げ、鰻の池で汚れた水の汚れなどを取り、再利用しています。さらに、ポンプの圧力で液体酸素を水中に補給します。
養殖場には大きな水槽が36基並びます。室内を年中暗くしているのは、光が入ることでコケや藻が生え、ポンプが目詰まりしてしまうのを防ぐため。また、夜行性である鰻にストレスを与えないようにという配慮もあります。
さらに、水温の変動も個体に影響するため、こちらでは30℃前後に保たれています。川の中に住んでいる鰻は自分で動いて住みやすいところを見つけることができますが、自然の環境ではない場所ではそうもいきません。同じような状況を作ってあげる必要があるのです。
そもそも「山本建設」は、熊本市に本社を構える建設会社です。創業自体は昭和37年ですが、養殖事業を始めたのは10年ぐらい前から。当初は宮崎県と鹿児島県で行っていましたが、7年前に甲佐町で鰻の養殖を始めることにしました。ここでは広大な土地も確保しやすく、清流・緑川水系から汲み上げた地下水で良質な鰻を育てることができるためです。
代表の山本祐司さんは「建設業以外の収益を伸ばしたくて始めましたが、養鰻はシラスウナギ(鰻の稚魚)が確保できれば安定して供給できます」と話しますが、それは単に自社の利益追求のためだけを考えているわけではありません。根底に「日本の経済を元気にしたい」という想いが強くあります。
山本さんは、自分たちだけで小さくまとまるのではなく、そこから次を考えていくことが大事だと続けます。「甲佐で何を作ってどこで売るのか、規模をどれだけ拡大できるのか」と、甲佐を一つの拠点として捉えているようです。
なかなかお目にかかれない養鰻場に潜入!
早速目の前で、出荷前の鰻たちが元気に泳ぎ回っています。その数何と、1万2~3千匹。一生かかっても食べつくせないほどの鰻です。そこへ「出荷前なので、いつもより低めの水温設定をしています。今日はあまり元気が無いですよ」とスタッフの野田さん。なんでも、水温を低くして鰻の活動を抑えることで無駄なエネルギーを使わせず、体重が目減りするのを防いでいるそうです。
籠の中で休んでいる鰻たちもいました。普段地の底にいる鰻には、時に休憩も必要とのこと。人間と同じです。
別の水槽では、小さくて白い紐状の何かが泳いでいます。「クロコ」と呼ばれ、シラスウナギが3~4ヶ月ほど成長したもの。水質と水温を管理しながら、魚介から採れるオイルやミネラルを含むエサを与えています。一つの水槽に4~5万匹ほどがひしめき合います。
選別を繰り返しながら9ヶ月~1年と半年ほど成長させると、いよいよ出荷の時期を迎えます。奥の部屋では、天井から床に積まれた桶に向かって、何本も柱のように水が注ぎ込まれています。覗き込むと、丸々とした鰻が動めいていました。
鰻養殖業界では、1㎏に何匹入っているかを表す単位は「P」というそうで、こちらでは3~5Pが出荷のタイミングです。同じ水槽で育てても、当然ながら個体差が出るため、6・7Pのサイズは池に戻して育て直しをします。2Pだと逆に大きすぎて良くないそうです。
この時期は一年で最も忙しいため、毎日選別と出荷の繰り返しです。仕分けは最後まで気を抜けないので、一つひとつの桶の蓋を開けて見なくて済むよう、目印を付けています。
ご自慢の鰻をいざ、実食!
ご厚意で鰻の蒲焼きを試食させてもらいました。適度な厚みと程良い弾力、タレをまとってテカテカと光り輝く姿に神々しさを感じてしまいます。香ばしく、ふっくらとした食感とコクのあるタレが絶妙にマッチして、ご飯が進む、進む!ご自宅の庭先にできた山椒で作ったという自家製の佃煮のトッピングも乙な味です。
こちらの鰻は、甲佐町農業研修センター「ろくじ館」(土用丑の日は鰻弁当も販売)や、通信販売などで手に入れることができます。日頃から「どうやって鰻を美味しく食べてもらうか」を模索しているという山本さんは、阿蘇高菜や「肥後そう川」の手延べそうめんなど、自分たちが食べて美味しいと思う「熊本の食」との掛け合わせを全国に向けて発信しています。
今年の9月には熊本市の中心市街地にオープンする桜町再開発ビル「サクラマチクマモト」の中に飲食店もオープンする予定です。甲佐から、また一つ新たな可能性が広がる予感がします。