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建築を通して豊かな暮らしと文化を創造する 水田和弘さん (株式会社ミズタホーム​代表)

会いにいく

古(いにしえ)の情景を残し紡ぐ建築文化

人口の減少に伴い、小さな町や村で増え続ける「空き家」。壊すことは簡単にできても、建物が無くなった瞬間に景色が変わり、一度消えた「風景」は二度と再生できない…。そこに待ったをかけるのが、古いものを価値あるものとして残していく建築文化です。建物を一つの箱として見るのでなく、そこに住まい集う人々の暮らしや文化を大切にする一人の建築家がいます。今回は、株式会社ミズタホーム​代表の水田和弘さんに会いに行きました。

水田さんは元々、宇土市のご出身です。これまで数々の住宅を手掛けてきましたが、10年ほど前に縁があってここ甲佐町を訪れました。「古民家がこんな風に生き返るというのを見せたかったのと、人が集って、語って、価値を分かち合える場所にしたかった」と、5年前に築140年の農家をリノベーションした古民家再生モデルハウス「山ぼうしの樹」を造りました。

現地を訪れると、縦横無尽に伸びる木々に覆われた庭を中心に、土間や縁側が懐かしくも新しい建物が佇み、周囲には離れやカフェなどの建物が点在して、一つの風景を造り出しています。水田さんが一目で惚れ込んだという蔵は、お洒落なバーに生まれ変わりました。

価値観と場のマッチング

ここにインスピレーションを感じて何かやりたいという人には、場所を提供しています。中には1年間の予約をする人もいるそう。「歴史的時間の魅力が詰まっている、それを感じるのかな」。家づくりにつながる暮らし方や、文化的価値観が一致したとき初めて、場がマッチングするのだとか。

また、年に2回はクリスマスマーケットとスプリングマーケットを主催。何かあれば小さなイベントも行います。イキイキとした表情の主催者や参加者たちを見ながら、あのまま縁がなかったら壊されていたと思うと、感慨深い気持ちになるそうです。「こういう場所でこんな体験ができる、そのことに幸せを感じます」。

新しいものも進化として大事ですが、それだけを追い求めると古いものを無視することになってしまうと水田さんは警鐘を鳴らします。「古いものに価値は無いの?なぜ捨てるの?なぜ壊すの?」仕事をしながら、常にそのような疑問を持っていたそうです。

古民家に住む人に会うと「寒い」「暗い」「使いづらい」など、古い家に対してネガティブな言葉が次々と出てくるそうです。「そうではないと言葉で説明するのは難しいですが、リノベーションで目に見える形にすることはできます」。完成した住宅を見て「素敵」「オシャレ」「居心地がいい」「住みたい」と、ポジティブな言葉が出る空間づくりをして、そこに価値を見出すことを大切にされています。

建築文化を通して、いかに風土を守るか

自分の町や村が好きだと自然に思えるようになれば、郷土への「誇り」につながり、そこで生きていくための持続可能な暮らしができる。そう信じて水田さんの挑戦は続きます。「安心して次世代の人に繋げられるものを造ることが自分たちの仕事かなと思うんです。建築のすべてにそれがある。暮らしとか、文化とか、古いものの価値観とか」。

「山ぼうし」から始まった甲佐町の古民家再生モデルハウスは、カフェや雑貨の販売を行う「ヨリドコロえんがわ」にも発展しています。元々はパンチコや商品券交換所、カラオケなど様々な用途に利用されてきた古民家でした。そして“場面が変われど常に人が集まる場”でもありました。「ここと想いが通じ合った。ここも縁があったんですね」と水田さんは笑います。

取材中も、旅行中と思われる女性がふらりと立ち寄る姿を目にしました。「大事なのは、場の提供だけでなく“おもてなし”の気持ちです。帰る時に“また来たいね”、何日か経って“また行きたいね”と言ってもらえるように、その町で過ごした時間を価値のある時間にして変換してあげることも必要だと思っています」。

もちろん、近所の先住民たちもお客様としてやって来ます。「ここは素晴らしい人材の宝庫。ワークショップの先生として指導してもらうなど、文化的価値の継承をコツコツやっていきたいですね」。

見つめる未来、ときどき原点回帰

水田さんはまた、文化的思想に共感する人を増やすことも「まちづくり」の肝になると言います。言い換えれば“いいウイルスが広まる”こと。「私たちはプロとして場の提供はできます。それから先は、町中が同じ方向に向いて動かないと。祭りのように」。町の将来の姿を見据える想像力と創造力が要になるようです。

本業では大きな単位の見積書を書く水田さんですが、「えんがわ」で扱うのは百円単位の品物です。ただ、後者の方がお金のありがたみを感じられるそうです。「原点に立ち返り、振り返る場になります。私はここを修行の場と捉えています」。フラットで居心地の良い空間が生まれる秘訣は、同じ視点に立てるかどうか、だそうです。

水田さんの思想の原点は、さらに中学生の頃まで遡ります。「中2の時に自分の部屋を造ったのが始まりかな」。さらりと凄い発言が飛び出しました。親にねだっても無理だから自分で作ろうと、デッサンを起こし、流木を集め、手づくりで自分の部屋を増築したそうです。

そこは、同級生から見かけない人までが集まるくつろぎの“拠り所”になりました。「場を作れば人が来るというのは、過去に体験して分かっていた」と、少年のように笑う水田さんは、町の未来を想うステキな“甲佐人”の顔をしていました。

INFORMATION

水田和弘(みずたかずひろ)さん

職業
建築家
出会える場所
やまぼうしの樹・ヨリドコロえんがわ MAPはこちら