旅時間を愉しむ。築130年の古民家宿「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」

探しにいく

時計もテレビもない。決して便利ではないけれど、それが贅沢な思い出に変わる。

 

熊本市内から40分ほど車を走らせ、甲佐町商店街の入り口に差しかかる通りの角に、趣のある建物が気品に溢れた様子で出迎えてくれました。木の窓枠や、縁側がそばを流れる大井手川(おおいでがわ)と相まって一枚の絵のように感じられます。

ここは130年もの長い間、甲佐町の人々と共に時を過ごしてきた建物をリノベーションして造られた「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷(そすいのさと)」と呼ばれる古民家ホテルです。

 

軒先の大きなのれんをくぐると、奥に長く昔の長屋を感じさせる土間がひんやりと心地よくつづいていました。エントランスは吹き抜けで開放感があります。もともとこのような造りの建物だったのでしょうか。

 

 

ひとつ前は、町のたばこ屋として親しまれ、そのまたひとつ前は質屋として、この場所で古くから商いを営まれていた建物ということでした。母屋にあたる建物は住居としても使われていたとの事で、元々のカタチをおおよそ残しつつ、宿泊施設としての役割を持たせるため、部屋を改築したと伺いました。

 

 

さて、聞き慣れない独特な宿の名前「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷(そすいのさと)」。由来は何なのでしょうか。

 

聞くところによると「NIPPONIA(ニッポニア)」とは、株式会社NOTEが掲げる古民家再生(ムーヴメント)の総称なのだそうで、日本の各地に点在している古民家(文化的資源)を各地域の運営者と協力し合い、利用促進し活用を展開しているとの事です。

甲佐町における「地域の運営者」となったのが「一般社団法人パレット」と呼ばれる、地域で家業を営み、地域で暮らす若者たちです。

この若者たちにより、まだ組織もできてないゼロの状態から始められた「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」プロジェクト。着手したのが2018年、宿のオープンが2020年11月となると、驚異のスピードでこのプロジェクトが達成された事に驚きです。

前置きが長くなりましたが、この「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」と呼ばれる宿には、故郷を大切に思う若者たちや、町で暮らす方、色んな方々の想いが込められているという事なのでしょう。

 

古き良きものは残し、新たな命を吹き込む

 

130年以上にもなる建物を、フルリノベーションして造られた母屋。庭に新しく建てられた離れ、流れる水の音が心地よい庭園。以前の面影を残す客室に案内していただきました。

元は質蔵だったというこの部屋には、その名残の鉄扉が存在しています。重厚な扉を開けると、そこには二階へ続く階段が。

NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」の部屋は全て二階建て式になっていて、一階は洗面やお風呂、寛ぎのスペースとなっており、二階に寝室が設けられています。


 

二階へ上がると、縁側の窓から明るい光が差し込み、畳と品良く揃えられたお座布団に、思わずゴロンと転がりたくなってしまいます。

窓の外にはこの宿の名前の由来となった由縁である大井手川(おおいでがわ)。甲佐町には緑川の恩恵を受け、町中にこうした水路が張り巡らされています。

この情景を「疏水の郷(そすいのさと)」という言葉で名付ける事にしたそうです。「疏水(そすい)」とはなかなか聞き慣れない言葉でしたが、水路や運河という意味合いがあったのですね。

 

この宿の支配人である柴尾さんにお話を伺いました。

「当館のコンセプトは『地域とゆるやかにつながる縁側』です。町全体を一つのホテルとイメージしているので、町の外から来てくださるゲストの皆様と、町内の住民がゆるやかにつながるきっかけになる。そんな場所になれたらと思って運営しております。」

 

現代においてテレビや時計のない空間は貴重で、とても贅沢な時が過ごせそうですね。

「お部屋では日常の喧騒を脇に置いて、ご家族やお仲間と顔をあわせてお話ししながらゆっくりと過ごして欲しいですね。歴史や余白のある古民家という空間だからこそ、目の前の豊かさに目を向けやすく、効率性だけではない世界観に刺激を感じてもらえたら嬉しいです。また、町巡りサイクリングや緑川SUP・カヌーなど甲佐の自然を満喫できるアクティビティや、商店街など地域のお店を巡って、食べ歩きやお土産探しもぜひ楽しんで欲しいと思っています。」

 

お客様からの反響が多いところはどこでしょう?

「エントランスにある「縁側」ですね。川の上に座っているような感覚で、涼しい風と水の流れる音を聞きながら、どなたでもゆっくりとお過ごしいただけます。対岸の道から見ると、タイムスリップしたかのような雰囲気になるので、撮影スポットとしても人気の場所です。」

 

「泊まる」。にとどまらない宿のカタチ

 

「泊まる目的でなくても、いつでもいらっしゃって下さい。」と柴尾支配人は気さくに言ってくださいます。

 

宿の受付ロビーに併設されている「古田パン」は、この甲佐町で暮らす店主が営む町のパン屋さんです。自家製の天然酵母で丁寧に仕込まれるパンは、「毎日食べても安心なパンを」と気持ちのこもった温かい味がします。

私がお勧めするのが「カンパーニュ」。パリっとした外側の生地と中のもっちりした生地が美味しく、大満足な一品です。それぞれのパンが焼き上がり、店内に並べられていく様子は見ているとワクワクします。お店を訪れたご近所さん、町外からパンを求めて来られたお客様、みんなでパンを囲んでたわいのない話ができるのもこの場所の魅力の一つだと思います。

 

新たな未来へ一歩を踏み出したシンボル的な存在

 

近年、甲佐町は若者を中心に新しいお店やキャンプ場などが続々と展開され、たくさんのメディアに取り上げられています。その中でも、ここ「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」は、古き物を大切に思い、新しい物も創りだせる場所。こういう場所が甲佐町のこれからを担っていく、シンボル的な存在になっていくのだろうな、と今回取材させて頂いて私はそう感じました。

「地域の一番の魅力は『ひと』だと感じています。魅力的なお店も、それを運営している人が素敵な方ばかりなので、ゲストにもできる限りご紹介させていただいております。また、偶然ゲストと出会った地域の方がお土産を渡してくれたり、農家さんが採れたて野菜を持って来てくれたりして、びっくりするくらい喜んでおられました。都会でもなければ元々観光地でもない、地域ならではの温かさに触れることで、また甲佐町来たいと思う方が増えると嬉しく思います。」

 

「泊まらなくても、いつでもどうぞ。」と笑顔で仰ってくれる柴尾支配人に甘えて、お近くにお越しの際は、気軽に立ち寄ってみていただければと思います。

INFORMATION

NIPPONIA 甲佐 疏水の郷

公式ホームページ https://nipponiakosa.jp
公式ホームページ https://www.instagram.com/nipponia_kosa/

住所
〒861-4601
熊本県上益城郡甲佐町岩下82 MAPはこちら
TEL
096-234-8871
営業時間
チェックイン15:00〜18:00

チェックアウト10:00